格差社会の克服を

 今年(2018年)1月、「新・日本の階級社会」(橋本健二 講談社現代新書)という衝撃的な本が出版されました。現代の日本社会は、もはや「格差社会」などという生ぬるい言葉で形容すべきものではない。それは明らかに、「階級社会」であると。
 社会の頂点に立つ資本家階級(経営者・役員)は就業人口比約4%で平均年収861万円。その下の新中間階級(管理職・専門職・上級事務職)は約21%、499万円。底辺を支える労働者階級(単純事務職・販売職・サービス職など)は約35%で370万円。資本家と労働者を兼ねた旧中間階級(自営業者・家族従業者)は約13%で303万円。問題は、近年、労働者階級の中で正規労働者と非正規労働者の格差が大きくなっており、非正規労働者を一つの階級(アンダークラス)と呼ぶべき層があることで、この層の比率は実に約15%、930万人に及ぶ。年収は186万円と極端に低く、貧困率は逆に39%と極端に高く、未婚率も男性66%と高いことです。 
 それにもかかわらず上の4つの階級に属する人々は最下層のアンダークラスへの思いやりが少ないと言われます。貧富の差は個人の責任だとする「自己責任論」を彼らは支持し、所得再分配政策にも否定的とのことです。 
 労働者階級も今や抑圧する側とは驚きです。働く人の味方だった労働組合が、平成に入って大きく変わったと言われます。長期不況でリストラの嵐が吹き荒れるなか、余裕を失った「正社員クラブ」は、自らの職や賃金を守るため非正社員の拡大を黙認しました。当の正社員にとってみれば、明日のボーナス額が大事なのであり、非正規社員の時給を下げてでも、その分ボーナスに上乗せしてほしいと願うのが本音とのこと。ただ労働組合が正社員の権益維持のための「仲良しクラブ」として存続すればそれでよい、という意識の正社員労働組合員が多いのです。働く人の間に分断ができ、その溝を埋める役割を労働組合は果たせていません。労組ならば非正社員でも味方になってくれる、そんな期待は裏切られたとの声が多いとのこと。「しょせん、連合は大企業や財界の代弁者に過ぎない。国民の生命、財産より自分たちの目先のカネが大事なのだ」という声もあります。労組の支援を受ける革新諸政党も、非正社員に目を十分向けていません。こんな社会で良いのでしょうか。文明社会は貧困層を自業自得だとして見捨てたりはしないと言われます。 
 格差が拡大すれば全ての人が不利益を被る事実も知るべきです。人々の間に敵対心が生まれ連帯感が薄くなり、その結果犯罪が増えます。ストレスが増えるので健康状態も悪化し平均寿命が短くなることが確かめられています。そして、生産性が低下してしまいます。能力のある人でも非正規の単純労働ばかりさせられてしまう。また貧困な家庭に育つ子供たちは、進学することができず、その能力を伸ばすことができなくなります。こうして人的資本が不足し、経済成長率も低下してしまいます。OECD(経済協力開発機構)の推計では、日本は1990年から2010年の間に、格差拡大がなければGDP成長率は5.6%も上昇し23.1%に達していたとのことです。
 著者の橋本氏によれば、格差縮小には、①賃金格差の縮小、②所得の再分配、③所得格差を生む原因の解消、の三つに大別できるとのことです。 
 賃金格差の縮小には、均等待遇の実現、最低賃金の引き上げ、労働時間短縮とワークシェアリング、があります。所得の再分配には、累進課税の強化、金融資産税の導入、生活保護制度の実効性の確保、ベーシック・インカム、があります。そして、所得格差を生む原因の解消には、相続税率の引き上げ、教育機会の平等の確保、があるとのことです。 
 以上の諸施策が実現し、これによって階級間の格差が小さなものになり、また自分の所属階級を自由に選ぶ可能性が広がれば、階級というものの意味は、今よりずっと小さなものになるだろう。これを「非階級社会」と呼ぶことができるならば、これが目指すべき社会の姿と考えることにしたいとのことです。
 しかし、格差解消の立場から自民党以外の政党を支持したくても、現実には支持しうる政党がないという現実があるとのこと。平和の党の平和とは、戦争がなく飢餓や貧困、差別や抑圧等のない状態を言います。米大統領選の民主党予備選候補者バーニー・サンダースのような政治家でありたいと思います。